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広島高等裁判所 昭和32年(ネ)225号 判決 1961年12月04日

広島市松原町六五一番地

控訴人

入江平蔵

右訴訟代理人弁護士

岡田俊男

江島晴夫

同市基町一番地

被控訴人

広島国税局長 塩崎潤

右指定代理人検事

上野国夫

大蔵事務官 米沢久雄

大蔵事務官 田原広

右当事者間の昭和三二年(ネ)第二二五号行政処分取消請求控訴事件について左のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取り消す、被控訴人が昭和二九年五月三一日付を以て控訴人の昭和二三年度所得金額を一、五〇八、一〇〇円となした審査決定を取り消し右所得金額を六七九、七八二円と変更する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠関係は、控訴代理人において「本件審査決定は、その所得金額の認定の当否を別としても、該決定の通知書には主文及び理由が記載せられていないから所得税法第四九条第六項に違背し取消を免れない。尤も、右審査決定は右所得税法の規定が施行せられた昭和二五年四月一日以前の所得税に関するものであるが、処分時が昭和二九年五月三一日である以上当然右規定の適用を受けるものというべきである。仮りにそうでなく右審査決定については昭和二五年の改正前の所得税法第五〇条によるべきものであるとしても、本件審査決定の如く全然主文及び理由を記載しないことは違法である。」と述べ、甲第八号証の一ないし一六、第九号証を提出し、当審証人市川正雄、同秋本利男、同高橋鉄太郎、同入江正夫、同横田正美、同福井太郎の各証言を援用し、乙第七号証の成立を認めてこれを利益に援用し、被控訴代理人において「本件審査決定は昭和二五年の改正前の所得税法第五〇条に基づいて行なつたものであつて、同条は審査決定に理由を記載すべきことを規定していないから、本件審査決定通知書に理由を記載しなかつたことに何等違法はない。審査決定通知書に理由の記載を要求せられるようになつたのは右改正以後の所得税法からであり、該改正法は昭和二五年四月一日以後の課税処分に対して適用されるものである。」と述べ、乙第七号証の一ないし一〇を提出し、前記甲号各証の成立を認めたほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する(但し原判決二枚目裏六行目に一、五八八、一〇八円とあるのを一、五〇八、一〇〇円と訂正する)。

理由

当裁判所は本件審査決定の内容に控訴人主張のような違法は存しないと判断するものであるが、その理由は原判決四枚目裏一行目に一、五〇八、一〇八円とあるのを一、五〇八、一〇〇円(但し端数八円を切捨てたものと認める)と訂正するほか原判決理由記載のとおりであるからこれを引用する。原審の認定と異る当審証人入江正夫の証言は措信し難く、他に原審の認定を動かすに足る新たな証拠はない。

そこで、本件審査決定通知書の方式に瑕疵ありとする控訴人の主張について判断する。本件審査決定は昭和二四年二月二五日付の更正処分に対する審査請求につきなされたものであることは右引用にかかる原判決説示のとおりであるところ、昭和二五年法律第七一号所得税法改正法の附則第一〇項第一一項によれば昭和二五年三月三一日以前の通知に係る更正処分等の審査についてはなお從前の例によるべきことが定められており、右改正前の所得税法においてはその第五〇条で審査請求に対する決定を納税義務者に通知すべきことを定めているだけでその通知の方式については別段の定めをしていないから、該審査決定の通知書には右改正後の所得税法第四九条第六項に定めるような理由を附記した一定の形式による決定が記載せられる必要のないことはいうまでもないところであつて、要は審査庁が審査の結果正当と認めた所得金額等を明らかにするを以つて足ると解すべきである。而して、成立に争いない甲第九号証によれば本件審査決定書には控訴人の昭和二三年度分の所得金額を一、五〇八、一〇〇円と決定する旨の記載があることは明らかであるから、右決定は右改正前の所得税法に基づく審査決定の通知としては方式において何等欠けるところはないというべきである。控訴人のこの点に関する主張もまた理由がない。

よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当であつて控訴は理由なきに帰するから、民事訴訟法第三八四条によりこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について同法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 河相格治 裁判官 胡田勲 裁判官 宮本聖司)

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